〜就活室便り〜#41 Welcome to the Machine | ファッション専門学校の東京服飾専門学校

〜就活室便り〜#41 Welcome to the Machine

〜就活室便り〜#41 Welcome to the Machine

 

 

みなさんこんにちは。就活室のHANAZONOです。暑い暑い、と思っているうちに、
実は陽は少し短くなって来ていまして、それでもさすがに家を出るときは太陽がま
ぶしいですが、朝起きて外猫にご飯をあげる時が少し暗くなってきました。まあ夏至
から一か月以上 経っているわけですし、一日一日秋分が近づいて来ているので当然
といえば当然なんですけどこう暑いとそういうことを忘れてしまいますよね。今、
この原稿を書いている時点ではぎりぎり季節は夏なのですが、ブログ公開日にはもう
旧暦では立秋を超え、もう秋の季節になります。ただ気温からして全くそういう気分
にはなれませんが、一応残暑の気候、ということになります。現在の気候変動でつらい
のはその残暑がやたらと長いことですよね。以前は9月を過ぎると暑いのを少し我慢
して長袖を着てみたりジャケットを羽織ったりしてみたんですが、今ではもう全く
その気もなく、まだまだ半袖がずうっと続くと思うのでまた途中で半袖シャツ買い
足そうかな、と思います。現在のアパレルの基本のマンスリーマーチャンダイジング
も本当にアイテムが変わってしまいますよね。30度超えの日に買い物に行ったら
防寒着ばっかり並んでた、なんて悪夢としか言いようがない気がします。それでも
お盆前後には秋の虫の声が聞こえ始め季節の変化を感じるようになると思います。
実際は秋風なんか少しも吹かず熱風吹き荒れる、って感じなんですけどね。

 

それでもアパレル製品は一朝一夕に出来上がるものではなく生地の段階から考えると
非常に長いリードタイムを必要とします。現在生産しているのは秋冬物真っ盛り、
という縫製工場に今回お邪魔してきましたので今回はそのレポートをお送りしたいと
思います。

 

 

まず最初にお伺いしたのはソーイングアサヒさん。千葉の旭市といえば屏風ヶ浦
で有名な海水浴場も多く、夏はメロン、冬はいちごで有名、当然海の幸も豊富ですが、
いも豚で有名な国内有数の豚の産地でもあります。そんな旭市に工場を構えるソーイング
アサヒさんは1973年の創業ですからもう50年以上の歴史を持ち、現在までプレタ、
と呼ばれる高級婦人服を中心に生産してきた技術においても規模においても関東屈指
の縫製工場です。実際に現在仕事が入っている会社を見ていくと、J社、L社、S社、
T社、R社といった品質にうるさい、高額商品中心の会社ばかりです。現在縫製中の商品
も素材、デザインともに難易度の高い商品でした。では、少し画像を交えて工場の内部
を紹介します。

 

まず工場の全景を、と思ったのですが、ちょっと広すぎて全景、というわけには行き
ませんでした。こんな光景です。

なかなか現在50人以上の工場が少なくなって来ました。そして1フロアで作業を行える
工場ももう東京ではありません。場所的にも余裕がある分,清潔で、作業も効率的に行う
ことができます。現場に入って第一の部屋がCADルームになります。次の写真です。

作業効率、正確さ生地特性、等を考慮してアパレルから届いたパターンをCADに入れ
なおします。これだけでもう数手間追加になっていますね。

生地を重ね、自動裁断機(CAM)で裁断していくところです。これは荒断ち、と呼ばれる
段階で、実際のパターンより余裕をもって裁断します。これは裁断後、寸法の変化が
あった場合に対応できるように、という措置で、特に現在の強撚糸使いの生地やスト
レッチ素材、クレープ組織の商品対しては有効な方法です。

これは柄合わせの光景です。柄物には必ずその柄の繰り返しのピッチがあり、ただ単純
に裁断していくとその柄のピッチが型紙のピッチと合わず1着1着柄の出方が違うものが
出来上がる可能性があります。そのまま裁断、縫製してしまった場合、いい柄の出方と
おかしな柄の出方の両方の製品が存在することになり、裁断後は直すことができません。
それゆえ、裁断前にレーザーポインターを照射しながら丁寧に丁寧に柄合わせをしてい
きます。プリントもそうですが特にチェック柄だと柄が曲がったまま裁断してしまうと
結構生理的に気持のよくない商品が出来上がったりします。大変な作業ですが特にプレタ
ゾーンではどうしても必要な作業になります。

 

写真はありませんが生地の裁断前にまずスポンジャーという機械でスポンジングという
作業をします。生地が織り上がり、染色、整理が終了後に検品をしながら機械で芯に巻き
取り、反物の形で出荷します。どうしようもないことなのですが、その巻取りの段階で
必ずテンションがかかります。つまり引っ張られてある程度伸びた段階で生地は出荷され
ているわけです。よって生地を巻き取りの段階から平らに置き(放反といいます)、テン
ションから開放すると、だんだん元に戻り、要は少し縮みます。スポンジングはそういった
生地をリラックスさせることを強制的に行う機械だと思っていただければ間違いはあり
ません。蒸気を通すことでより効果的にリラックスさせ伸びていた生地が本来の風合いを
取り戻しふっくらとしてきますしそこからの寸法変化の可能性がかなり減少します。いい
ことづくめに見えますがその分、お金と手間暇は当然かかります。なんか当然のごとく
スポンジャーをかけている光景を見ると信頼感がわくと同時にその分ちゃんと工賃に乗せて
請求しているのかどうかちょっと心配になってしまいます。次にやっと本裁断に入ります。
下の写真をご覧ください。

こうして長い工程をかけ、荒断ちしたパーツに芯を張り、本裁断していきます。最初の生地
の段階で本裁断してしまうのと手のかかり方は数倍、なんてもんじゃなくかかります。荒断ち
パーツを重ねていくだけでちょっと嫌になってしまうくらい手がかかっていますね。結局
いい服を作るって、そういうことなんですね。

本裁断したパーツに細かい芯張りやしわ取り、くせ取りをしていきます。実際のミシンの
出番はそのあとになります。

縫製のラインはその内容や数量、等によって3つのラインに分かれています。これは2番目の
ラインの写真です。今回1番目のラインが特徴のあるプリント生地だったので撮影は遠慮し
ました。

その後ボタンホール、ボタン付け、まとめ作業、等の工程があり、検品、プレスをしてから
出荷の段取りとなります。当日出荷の商品がかなりの数量があり、みなさん対応に追われて
いらっしゃいました。

一着の服が出来上がるまでにこんな様々な工程を経ている、ということをご存じない方も
多いと思いますが、実際はこれほど大変なことなんです。逆にそれだけ手間暇かかること
だから人件費の安い海外に仕事が行ってしまい現在繊維製品の98.5%が輸入品となった理由
の一つです。しかし海外工場の製品を見てもどうやってもここまで手はかけていないです
よね。メイド・イン・ジャパンは日本人が細やかに作る、ということにも理由はあるので
しょうが、実際、手間暇のかけ方が全然違うんです。高いものには必ず高い理由がある、
ということだけは覚えておいてください。

とはいっても現在、ウルトラ・ファストファッション、とでもいうべき廉価な商品が店頭に
あふれ、それに対抗するために良いものでもプライスダウン、工賃ダウンを求められる状況
になってきました。ただでさえ海外に仕事が流出しているところに工賃ダウン、というよう
な状況に対応すべく各工場さんでいろんな対策を考え、実行していらっしゃいます。ここ、
ソーイングアサヒさんでは、ファクトリーブランドを現在進行中です。三陽商会をはじめ
数々のアパレルでブランドを立ち上げ、発展させてきた林修三さんをデザイナーとして、
自社企画、自社制作のブランドを次第に発展させていこうと現在様々なトライアルをして
いらっしゃいます。生地もシルク混をはじめとしてオリジナリティにあふれた、そしていう
なれば「縫製するのが難しい」素材を、またディテールにこだわった(ということは当然
縫製が難しい、ということです)デザインでつくる、ということなので当然苦労も多く、
上代もかなり高くなります。その魅力を誰にも分かりやすく説明していくことはかなり
難しいことですが(最初は‘啓蒙‘という言葉を使おうかとも思いました)、インスタグラム
用撮影、等はかなりされているようなので、今後のご成功をお祈りしたいですね。

また、それ以外にもクラウドファンディングを利用したスーツ制作、等も行なっていらっ
しゃいます。いずれにしろアパレルの下請け100%からの脱却は、今後の縫製工場にとって
は急務の課題であることは間違いありません。これは繊維業界だけでなく全産業で、大手
の下請け100%からの脱却、ということは今後の大命題だと思います。

 

この次の日に今度は辻洋装店さんにお伺いしました。連日連夜って感じですが、2件の縫製
工場に共通するもの、違い、両方ともが分かりやすく貴重な体験となりました。

 

辻洋装店さんは、名前だけ聞くとブティックかな、と思われるかもしれませんが、昭和
22年創業、とまだ物資も少なかった戦直後と言ってもいい時期から70年以上の歴史を誇り
ます。最初はいオーダーメード服の製造小売から始め、その縫製のうまさから百貨店、
プレタアパレルから縫製依頼が絶えないため縫製工場としての道を歩んだ、ということ
ですが、いまだ創業以来の精神を大切にするため洋装店の名前はそのままにしている、
ということです。たとえ仕事がいくら増えようとも土地の安い地方に大規模な工場を展開
するのではなく、東京、中野の地を離れることなくMADE IN TOKYOを貫いていらっしゃい
ます。クオリティは高く、皇后陛下はじめ、各界の著名人の方の、特に正装用のお召し物を
沢山手掛けていらっしゃいます。そんな辻洋装店さんの工場内を簡単にですが、ご紹介した
いと思います。

株式会社辻洋装店さんでも放反後の生地のケアにものすごい手間と時間をかけていらっ
しゃいます。写真をどうぞ。

ちょっと分かりづらいかもしれませんが、こちらでも裁断はまず荒断ちから、右の写真に
は棚に裁断したパーツが重ねて置かれているのがわかるかと思います。今回はその写真は
撮れませんでしたが、裁断後、パーツを1枚1枚吊して1、2日干す

そうです。吊し干しによってその後の作業での物性安定性が格段に増す、ということです。
生地が巻取り時のテンションで形状変化が見られ、それを安定させるために様々な手法を
とる、という話はすでにしましたが、辻洋装店さんの辻社長はテンションの問題だけで
なく、織る段階で横も整形しているため四方ともある程度とテンションは掛かっており、
生地の端と真ん中でもそのテンションからの戻り方(収縮率、といいます)が違う、とい
うことでとにかく手間暇かけて生地をリラックスさせています。いろいろな手法を今まで
見てきましたが、生地の真ん中と端の差まで気にしている工場を辻さん以外に知りません。
仕事ってこだわれば、いくらでもこだわれるものですね。 

上が実際の縫製現場です。場所に制約があることもあり、こちらでは普通の縫製工場の
ようにラインを組み、一人ひとり専用の担当パーツがあって、流れ作業で仕上げていくの
ではなく、3~4人のチーム制をとっています。当然各人の完成品に対するかかわり方は増え、
作業効率はライン制より落ちるかもしれませんが、一着にかかわる部分が格段に増えるため
各個人のスキルは格段に上がる、上がりやすくなると思います。車でも超高級車になると
こんな作り方になりますが、超高級婦人服もやはりチームの仕事になる、と考えていただければ
わかりやすいかな、と思います。チームは最大で5チーム、ということで他のチームの写真も
ご覧ください。

辻洋装店さんでは工程表とそのプライスがはっきりしていて、完成までの工程で論理的にプラ
イスが決定します。これは実は大変なことで論理的なプライスを出せる工場というのは実はほと
んどありません。たいてい洋服の上代との兼ね合いで決定してしまったり、何人でどれくらいの
時間がかかるからアバウトこんな感じ、とか値上げを交渉しようにもその論理的根拠を持たない
工場が実に多いのが現状です。辻さんは日本一工賃の高い工場をめざしていらっしゃって、すべて
が数値化してはっきりしていらっしゃいますので工程の数値化は大きな武器になっているようです。

先ほどのチーム制の話もそうですが辻洋装店さんのスローガンは、「洋服づくりは人づくりの道」、
というものです。洋服は人が作るものだから人が悪ければいい洋服は作れない、と各人の絶え間
ないレベルアップだけでなく、こまやかなフォロー、アドバイス等も欠かさず社員の人間形成、
人格形成に務めていらっしゃいます。これは、お話をお伺いする限り、会社が存続している限りは
続きそうです。社会人としてのデビューのその日からベテランと呼ばれ逆に若手の指導をする立場
になるまでずうっと続くこの教育が服を、会社を、各個人をレベルアップしている要因となって
いるようです。

 

そんな辻洋装にしても市場動向からする値段交渉(値下げ要請)、不安定な発注状況からは逃れられ
ません。そんな対策として、繊維商社的な動き、というか生産委託業的な事を毎年少しずつ増やして
いっていらっしゃいます。自分のブランドを始めようと独立するデザイナーさんは以前から多く、
そんなデザイナーの方々の絵型から辻洋装さんでパターン作成をし、生地選定が必要な場合はその
お手伝いもして製品化につなげる、という企画アドバイスから生産工程全て引き受ける、という仕事
内容です。最近ではデザイナーだけでなくインフルエンサーからの相談、依頼も増えているようで、
将来はこちらの仕事を伸ばしていきたい、とのことでした。ソーイングアサヒさんと同様、ただの
アパレルの下請工場からの脱却、という目的は一緒ですが、その手法が異なって
います。これは思うにMADE IN TOKYOにこだわられた辻さんの姿勢が影響していると思われます。
中野、という土地にこだわられてきたがために、デザイナー、インフルエンサーが気軽に立ち寄り
やすく、一緒に相談に乗ってもらいながらものづくりの企画から進められる、という点が非常に大きい
と思います。東京から高速バスで2時間かけて訪問する旭市とは違い、中野は誰でも気軽にお伺い
できる場所であり、ひょっとしたらパッと何かの発想を思いついてそのまま当日にいきなり訪問する
お客さんも多いかもしれません。以前は東京と地方の賃金差が大きく、人件費コストに地方工場との
差がかなりあったようですが、現在コンビニをはじめとして賃金が全国区になってきたため地方との
コスト差はかなり縮まってきているようですし、特にこれからものづくりをしたいインフルエンサー、
等、今まで服作りに関係なかった人たちが服作りに参加するようになるとこの地の利を活かしたお仕事
はますます発展していくかもしれません。辻社長は、本当に良い時と呼べるような時は今まで一度も
なかった、とおっしゃっていましたが、これからがその時かもしれませんよ。それもこれもこだわりの
ものづくりとその技術があったからだと思います。自社だけでなく、お客様にも「服づくりは人づくり」
がどんどん拡散していくと良いですよね。

 

駆け足で2件の縫製工場のレポートをお送りしました。2件共、しっかりとした技術と完成にかける手間暇
の掛け方の徹底さが特徴でした。この技術をぜひ次代に向けて継承していって欲しいと思います。私は今
1番安いドイツ車に乗っていますが(その前は1番安いフランス車でしたがそれも)日本車と比べてどうか、
というと、ボディ、シャーシ、シート、エンジン、トランスミッション、等メーカー作のところは本当に
素晴らしいです。圧倒的にクオリティが劣るのは部品の部分で、日本車とは比べ物にならないくらい頻繁に
部品交換しなければならず、故障で動かなくなるとすればほとんどその部品の部分が原因です。日本はそれが
全く逆で日本の部品のクオリティは世界一だと思います。つまり、ジャパンメイドのクオリティは部品作り
をしている下請け中小企業が支えている、と言っても過言ではありません。そしてその下請け企業が大企業
からの種々の要請で、なかなか報われない日々が続いています。機械にしろ縫製にしろ日本の中小企業の
技術をもっと海外に紹介できたら、その橋渡しが少しでもできたら、といつも思うのですが、これはこれか
ら社会に出ていくみなさんにバトンを渡したいと思います。技術だけは、本当に継承していかないと絶えて
しまうからです。

津本陽の「夢のまた夢」、という秀吉の生涯を書いた作品があります。秀吉が5か月で作ったとされる肥前
名護屋城という城があります。津本陽はこの城跡に某ゼネコンの建築責任者と同行したそうです。その城を
そのゼネコンが請け負い、現代の重機を駆使して数百人体制で(すいません、本には書いてあったはずで
すが、詳しい数字を覚えていません、数千人だったかもしれません)建設したとしたら、最低でも3年は
かかる、という答えが来た、というエピソードが本の中に出てきます。天災で破損した熊本城の石垣の補修に
かかる時間を見ても、当時の人には当たり前のことだった築城の技術も一度失われてしまうともう七不思議
の世界に入ってしまう、ということは明らかで、ピラミッドだって、当時は全く普通の建築技術だったのかも
知れません。

とあるアパレルの方とお話をしていたら、あと数年で日本の工場ではジャケットはもう作れなくかるかも知れ
ない、とおっしゃっていました。技術を守り、伝えていく、そして世界に向けて喧伝していく、そんなことを
みなさんが少しでも引き受けていってくれたらな、と思ってやみません。みなさん、期待していますよ。
ジャケット縫製の技術が七不思議のひとつにならないようお祈りしています。

 

なんか今回は予定を大幅にオーバーして長い話になってしまい、申し訳ありませんでした。次回はもう少し
短く、アパレルの話をする予定です。ご期待いただけたらと思います。

 

ではまた。

 

HANAZONO

 

スタイリスト・デザイナー・衣装制作,MD,パタンナー、EC担当、アパレル販売職の就職はtfac

 

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東京服飾専門学校 次回オープンカレッジの日程

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